「運命共同体 百年の大計」   F-8-4



4. 各事例の検討 

3案件の代表的な個別案件各二例をこれらの不毛要素を使って検討していきます。

4-1 エネルギー政策

4-1-1 低線量被曝
福島原発事故後、ごく少数の医師・科学者と「専門家」(カッコ付き専門家)、は政府発表の放射線量は信頼できない、福島では深刻な被曝症状がもうすぐに出る、福島以外でもいずれは健康被害が出ると盛んに主張していました。注1) 

また、一部のメディアや野党政治家・活動家は彼らの主張を検証もせずにそのまま広報し、多くの専門家も「可能性は否定できない」として明確な判断を避けていました。
はっきりと否定していた専門家もいましたが一部にとどまっていました。

なお、反原発陣営には彼らを”善人”、否定する専門家を”悪人”扱いする「思い込み(単純化)」がまかり通り、それが一部メディアや世論にまで浸透していました。


このような状況のため、当時、世論は低線量被曝に対する不安と政府に対する強い怒りに陥っていました。つまり、「思い込み(不確実性)」と「感情」に翻弄されていました。

しかしながら、今まで政府情報への具体的な嫌疑は示されていません。注2) また、10年を経た現在でも喧伝されたような被曝症状・健康被害は出ていません。

実際、事故直後の限られた情報からであっても、彼らの主張は科学的事実と乖離しています。被曝症状にはある程度の不確実性があるとは言え下図のようにかなり明らかとなっていたので、明確に否定されるべき主張でした。

  


世論の怒りと不安を煽り立てた彼らと一部のメディアや野党政治家・活動家は当然のことながら、彼らの主張をはっきりと否定しなかった専門家も厳しく非難されるべきでしょう。注3) 

結局、彼らの主張は扇情に過ぎなかったとして反原発運動に対する反感をも招いてしまいました。このような結果となるのは十分予想できたのに彼らがあのような活動に走ってしまったのは、反原発や反体制の「信念」に囚われすぎたため、あるいは自らが政府・東電への反発・恨みの「感情」に陥ったためと思われます。「損得」があったのも明らかでしょう。


以上をまとめると、自分の「信念」を拡散させたい一部の専門家が世論の「思い込み(不確実性)」と「感情」を煽り、自らも「信念」「感情」「損得」のために歪んだ情報を流布していました。一部のメディア・世論にも彼らを”善人”、彼らの批判者を”悪人”扱いする「思い込み(単純化)」が浸透していました。



注1)「専門家」(カッコ付き専門家)、は、いわくつきの専門家、他分野の専門家、エセ専門家など、本当の専門家ではないとの意味。低線量被曝の場合はジャーナリスト、マンガ家、地元活動家など専門性のない人々までが参入。

注2)反原発を貫く京都大学原子炉実験所の熊取六人組の一人で、放射線計測を専門とする研究者は「政府発表の放射線量は概ね信頼できる。政府はよくやっている」旨の発言をしている。 ちなみに、「熊取六人組の別の一人はデタラメと言っているが・・」との質問には「彼は活動家だから」と答えている。

注3)「放射線被曝の理科・社会」−四年目の『福島の真実』− の著者3名は原発に批判的な立場ではあるが、@原発の是非と今回の被曝影響の大小は区別して扱うべき A過去に蓄積された知見や事故後のデータはかなりあるので、「何も分かっていない」かのように扱うべきではない、と厳しく批判している。

4-1-2 電源構成(エネルギーミックス)
(政府)
原発は事故による被害だけでなく核のゴミ・軍事転用・テロリスクなどの欠点があるのですが、実際には世界では原発推進の動きが継続しています。注1) それは、他の発電方法と比較して@安価、A温暖化対策として有用、A(意外に思えるが)安全、等のメリットのためです。注2)注3)  
ただし、日本の場合、安全メリットは「感情」的に受け入れがたくなっています。 

このような状況で原発と他の発電方式をどのように組み合わせるべきか? 政府が出した答えが下の「電源構成」となります。 

    

 

2030年では化石燃料の比率は下がっていますが、再生可能エネルギーの増加はわずかであり、原発の再稼働がそのほとんどを担っています。政府としては、現在の再稼働反対の世論は「感情」的なもので今後弱まっていく、と見込んでいるはずです。注4) (実際、反原発陣営が上記の東電裁判や低線量被曝とは異次元の有意義で実効性のある活動を行わない限り、この見込みどおりになってしまうでしょう)

(野党)
しかしながら、野党は原発再稼働に反対しているだけで、肝心かなめとなる総体的な電源構成に関する議論には消極的です。国会でも議論自体がほとんど行われていないので、結局はこの政府案で進められることになります。

野党が電源構成の議論に対して消極的な理由は下記のようなことだと思われます。
・内容があまりにも複雑なので単純化することができない。
・不確実性が大きく確定的な結論を出しにくい。
・自党の「信念」(イデオロギー)を打ち出すことができない。
・世論への訴えに「感情」を利用しにくい。
・これらのことから「損得」で自党にプラスとならない。

本来あるべき対立の放棄は責任野党の怠慢と言わざるを得ません。

以上をまとめると、きわめて重要な議論にもかかわらず、メリットがないことから議論が消極的となっています。



注1)現在、世界で450基の原発が稼働しており、建設中が66基、計画中が155基、提案中が410基。新設しないと決めているのは数ケ国のみ。 グレタさんの母国スウェーデンでは1980年の早い時期に2010年までの原発全廃を決定したが、諸問題が顕在化し二転三転した末に2016年からは原発容認(発電比率43%)となっている。 ドイツは原発事故後に2022年までの原発全廃を決定したが、2019年の世論調査では賛成は1/3のみ(延長すべき45%、分からない22%)で見直し論が出はじめている。

注2)「地球温暖化問題の父」と言われている気候学者のジェームズ・ハンセンは、深刻な温暖化を食い止めるための唯一の道だとして原発推進を強く訴えている。また、グリーンピース創立メンバーのパトリック・ムーアなど少なからずの著名な環境活動家が当初の反原発から原発推進に「転向」している。(本サイトの別記事参照

注3)WHOの統計によるとエネルギー当たりの死亡率(人/1兆ワット時)は石炭161、石油・天然ガス40、太陽光0.44、水力1.4、原子力0.04であり、原発が圧倒的に安全となる。石炭による死亡は炭坑事故と大気汚染が多く、原子力のほとんどはチェルノブイリ事故の4000人。

注4)事故は稀であるが起きると大変悲惨となる点で原発と飛行機は類似している。飛行機は世界で年間40億人が気にもせずに利用しているが、9.11テロの後のアメリカ人は恐怖に駆られて飛行機の代わりに車を使ったため事故死が急増した。仮に同様のテロが毎週あったとしても、それに遭遇して死亡する確率は自動車事故の1/20以下なので、「感情」によってとんでもない判断をしていたことになる。 日本での再稼働反対の世論もこれと同じと見込んでいるはず。





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