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「運命共同体 百年の大計」
4-2 治山治水
4-2-1 スーパー堤防反対運動
(反対住民)
スーパー堤防とは、多摩川や荒川など大都市を流れる河川のための高規格の堤防で、予想を超える豪雨による壊滅的な被害を回避しようとする壮大な事業です。下図のように堤防の幅を大幅に広げるもので、川沿いの「まちづくり」の面も強くなっています。注1)
現在、事業実施中の江戸川区では一部住民が反対運動を展開しています。野党が協力し裁判も行われていますが住民側の敗訴が続いています。反対理由は以下のようになっています。
・対象地域の住民は一時的な立ち退き(約3年)をしなければならない。
・計画すべての完成には12兆円が必要で、期間も400年以上かかる。
・他の方法(現状のままコンクリートで覆う、矢板を打ち込む)では費用が1/100で期間も短い。
しかしながら、実際には2兆円と400年は過大な見込みですし、基本的には住民にとって長期的メリットが大きく、社会正義にかなった政策と思われます。注2) 技術面に関して異議を示す専門家は皆無であり、少なくとも真剣に検討する価値のある計画であることは間違いありません。
結局、反対住民の態度は上記の二子玉川反対運動のスケールアップ版のようにしか思えません。
(野党)
また、野党幹部は、立ち退きの強制解体現場において「強権発動の光景に怒りを覚えます。この計画には一片の道理もない。世紀のムダを撤回させるまで頑張りぬきます」と檄を飛ばしていました。
しかし、これは住民の「感情」を煽るもの、ダメ事業と思わせて検討させないものでしかなく、反対運動を党勢アップに結び付ける「損得」あることは明らかでしょう。
(写真:住民・野党による抗議活動)
特に、現世代の「損得」のために将来世代に考えがおよんでいない点が残念です。将来世代にとってはスーパー堤防の方がよいのは明々白々で、他方式を遺すと恨まれてしまうのは間違いないでしょう。注3) 核のゴミと同じです。
本来、「運命共同体 百年の大計」を担う公党としてこの点はとても悩ましい所です。住民も交えて真剣に検討を進めるべきであって、場合によっては反対住民を説得しなければならないこともあるはずです。しかし、このような様子は全く見られません。「思い込み(単純化)」に逃げ込んでいるように思います。
以上をまとめると、電源構成とは違って「思い込み(不確実性)」・「信念」・「損得」・「感情」の点でメリットがあるので野党は積極的に活動です。住民の判断は「損得」・「感情」に左右され、野党・住民も単純な「思い込み(単純化)」に逃げています。
注1)1987年から全長873kmとして事業がスタートしたが、事業仕分けにて12兆円、400年もかかるとして廃止が決まった。しかし、直後に発生した東北大震災による国民の安全志向を受けて、翌年には都心の人口密集地120kmに縮小して再開することが決定されている。 スーパー堤防では内水氾濫などに比べ桁違いの被害となる決壊をほぼ完ぺきに防止することが出来る。
注2)12兆円と400年は当初計画の場合なので現計画ではかなり減るはず。もともと400年とするのも、今までの進捗実績からの単純計算なのでスピードアップは十分に可能。 事業としては、都心での堤防決壊では被害額は10兆円をはるかに超え得ること、これが繰り返すことを考えると、たとえ工事費用が10兆円近くであっても十分なメリットがある。 立ち退き対象の住民にとっては、3年の仮住まいは辛いとは言え、未来永劫、家を流される心配がないこと、環境が良くなり地価もアップすることなどから、長期的にはメリットが大きい ゼロメール地域に住む江戸川区住民50万人にとってメリットは絶大。低所得世帯の多い江戸川区の負担はわずかで、ほとんどを国費で賄うことになるので社会正義にもかなっている。
注3)他方式であるコンクリート式は地震や寿命に不安が残り景観の問題もある。矢板式は決壊の恐れが拭えない。いずれも「まちづくり」は別途行う必要がある。
4-2-2 脱ダム論
かつては治水の主役であったダムは1990年代以降の公共事業の見直し、田中康夫長野県知事による脱ダム論の影響もあって建設がほぼストップしています。
(河川工学者)
しかしながら、ある脱ダム論支持の県議会議員によると「河川工学者のほとんどがダム推進論者で、いわゆる御用学者。ダムに依らない治水を真正面から訴えることができる河川工学者は日本でたった二人しかいない」とのことなので、もしこれが本当であれば、脱ダム論の科学的根拠はわずか二人の異端工学者の見解に基づいていることになります。
なお、彼らは脱ダム陣営々から自分の信念を曲げない学者として賛美され“善人”扱いされています。「信念」と「思い込み(単純化)」です。
実際には、脱ダムを主張する複数の「専門家」(カッコ付き専門家)は存在するのですが、他分野の専門家や弁護士、活動家、ジャーナリストなどです。科学的な判断や「信念」の関与、および「損得」の点で大きな疑問符がつきます。
さらに、ダムの不確実性は土木関係よりも気象関係の方が圧倒的に大きいはずですが、河川工学者にとって気象は専門外なので気象に関する「思い込み(不確実性)」(異常気象への備えが不十分)が懸念されます。
(メディア・野党と政府)
メディアや野党は脱ダム論を好意的に取り上げるだけでなく、公共事業の闇や水没地域の悲劇、環境破壊を情緒的に訴えてきました。
さらに、活動的で発信力のある「専門家」は脱ダム論の喧伝に加え、ダム推進論者をダムマフィア呼ばわりして”悪人”に仕立て上げるなどで世論の怒りを煽りたててきました。「思い込み(単純化)」と「感情」です。
このようなことから世論は脱ダム論に固まっていったようです。
(軌道修正)
さて、最近の状況を見てみると、異常気象はすでに従来の想定を超えはじめていますし、今後もっと悪化する可能性が高くなっています。
また、なんとか完成に至った八ッ場ダムは今回の台風19号で治水の有効性を示しましたが、中止となった川辺川ダムでは悲劇の原因となったようです。
(写真:一晩で満水となった八ッ場ダム)
果たして、脱ダム論に行き過ぎはなかったのでしょうか? メディアや野党はしっかりした根拠もなく脱ダム論賛美に走っていた面はなかったのでしょうか? 世論はこれらに誘導されていたのではないでしょうか?
今、まさに新たな不確実性対応として軌道修正を真剣に検討すべき時であると思われます。
以上まとめると、「信念」を持った異端工学者や「専門家」によって偏ってしまった方針を「感情」や「思い込み(単純化)」を排して軌道修正を行うべきと思われます。
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