「運命共同体 百年の大計」   F-8-3



3. 不毛要素  
各案件での「不毛」の元を探っていくと、各案件が共通して抱えるいくつかの要素にたどり着きます。(これらが上記のアンダーラインで示唆されています) これらの要素はあらゆる判断に対して影響し「不毛」を引き起こします。そこで、これらを不毛要素とし、異なる案件を横断的に検討するツールとすべく明確化します。

3-1 「信念」
信念とは正しいと信じ堅固に守る考え、自分の拠り所としている考えとなります。そのため、どんな反証や反論を突き付けられて、頑なに自分の信念を堅持する場合がほとんどです。
信念自体は価値観、思考(考え方)、情報の三つの要素で成り立っています。価値観は人それぞれですが、思考には適不適があり、情報には正誤があります。そこで、明らかに不適切な思考と間違った情報による信念であれば、それらは「不毛」をを引き起こすので不毛要素となります。


通常の要素と区別するため、このような不毛要素を括弧付きで表記することにします。すなわち「信念」「情報」「思考」となります。以下、他の不毛要素も括弧付きの「**」と表記します。



本来、思考は論理的であり、情報は客観的であるはずなのですが、不毛要素となっている「信念」における「思考」と「情報」はイデオロギーや価値観などから影響を受けている場合が多くなっています。反原発の一部やグレダさんにその傾向が見えます。分かりやすい例では、3案件の見解は右派と左派の人々でほぼ明確に分かれています。注) 

注)これは組織が案件に対する見解を出し、所属する個人がその見解に影響を受けているためであろう。そのため、組織の都合次第で真逆になることもある。実際、世界各国での3案件がその国のイデオロギーに対応している傾向は見られない。たとえば、中国では原発を強力に推進し、世界最大の三峡ダムも完成させているが、その他の温暖化対策にきわめて消極的である。この方針を日本の左派vs右派の軸で示せば、イデオロギーとして全く相容れない右派よりもさらに右に位置する。

3-2 「思い込み」
思い込みは安易な独りよがりの固定観念・先入観で、信念とは似て非なるものです。基本的には、客観的な反証や反論が示されてそれを理解すれば容易に変更しますが、実際には理解力・判断力の不足など様々な理由でこの簡単なことが出来ない場合が多くなっており、これは不毛要素の「思い込み」となります。

本案件ではつぎの二つの「思い込み」が目立ちます。
1)「単純化」の傾向
物事を単純化してしまう、つまり実際には複雑な物事を自分で納得しやすい単純なものにしてしまいます。具体的には、検討すべき項目・データを無視する、定量的に検討すべきものを定性的に判断する、詳細に検討すべきものをイメージで判断する、などとなります。

これがさらに進むと、善or悪、あるいは真or偽との二元論で判断してしまう、つまり人物なら”善人”or”悪人”、あるいは見解なら「真実」or「虚偽」の単純な二者択一にしてしまうことが多くなります。

”悪人”の典型例は東電トップですが、一般的には、自分たちに都合のよい専門家は”善人”であって学識豊かで信念を貫く人格者とする一方、都合の悪い専門家・役人は”悪人”であってずる賢い御用学者や卑怯な権力の手先、腹黒・人面獣心・守銭奴、と決めつけます。

さらには、自分たちに都合のよい見解は“真実”であってしっかり学ぶ一方、都合の悪い見解は“虚偽”であって検討の価値すらないと全否定します。(検討してみないと全否定など出来ないはずですが・・・)

2)「不確実性」の恣意的解釈
不確実性を恣意的に解釈してしまう、つまり予見がきわめて難しい不確実な事柄を自説に都合のよいように解釈してしまいます。典型例は@二子玉川の「国の設定水位は過大」、Aグレタさんの「大量絶滅の始まり」で、@は楽観に、Aは悲観に過ぎた解釈をしてしまっています。なお、本人の多くは本当にそのように思い込んでいますが、意図的に決めつけている人もいます。

案件別では、「エネルギー政策」では原発の安全性や再生可能エネルギーの実現可能性、「治山治水」では今後の異常気象や各種治水策の有効性、「地球温暖化」では最も基本となる人為説の真偽、さらに地球を寒冷化させる太陽活動低下・巨大噴火・核の冬などの発生可能性となります。

3-3 「感情」
不適切に感情の影響を受けてしまう、つまり@怒りが燃え上がる、A不安に陥る、B情緒的となる、C無闇に反発する、など感情的な行動をしてしまうことは少なくないのですが、これらが過度なものは不毛要素の「感情」となります。

事実ベースの案件では本来、「感情」は無縁でなければならないのですが、@はグレタさんの「あなた方は邪悪そのもの」、Aは「深刻な被曝症状がもうすぐに出る」(下記4-1-1)、Bは「温暖化でホッキョクグマがかわいそう」(4-3-2)、Cは二子玉川の「堤防建設ありきの発想が露骨」などが典型例となるでしょう。

ここで注意すべきは、これらは本人自身が知らずに陥ってしまう場合、ならびに意図的に他人を説得・誘導しようとする場合の両方があることです。特に後者は大きな訴求力があるので盛んに利用されています。      
              

3-4 「損得」
利害当事者が自分の損得を安易に決めつけてしまって、結局もっと大きな損を被ることは少なくないのですが、これは不毛要素の「損得」となります。
二子玉川の「素晴らしい眺めが遮られる」とした住民はダブルの損を被ってしまったと言えます。


また、利害当事者以外の者が自分の損得を優先させてしまう、つまり当事者の利益より自分(自グループ)の損得を優先させてしまうもの「損得」となります。

たとえば、与党は既得権益の維持、野党は党勢のアップ、メディア(マスコミ媒体)/ジャーナリストは売り上げ・知名度のアップ、科学者/専門家は研究予算・実績のアップなどを優先させてしまう場合です。

要するに、当事者か否かを問わず「不毛」をもたらす不適切な損得勘定を「損得」とします。


なお、「損得」には直接の利害だけでなく、社会的な功名・悪評なども含まれますし、さらには自分の認識や自尊心を優先させること、「批判のための批判」「なんでも反対」など単に自分の批判精神・反骨精神を満足させること、「貶す」「バカにする」などで鬱憤をはらすことなども含まれます。


ちなみに「百年の大計」特有ですが、超長期政策故に自分たち現世代の利益を将来世代よりも優先させてしまう場合もあります。典型例はグレタさんから「あなた方は私たちを裏切っています」と糾弾されている我々、あるいは原発からの放射性廃棄物を次世代に残す「核のごみ問題」でしょう。

3-5 不毛要素のまとめ

「信念」信念とは正しいと信じ、自分の拠り所としている考え。人それぞれである価値観に加えて適切な思考と正しい情報の3要素となっているのが本来の信念。これを満足していないものは「不毛」を引き起こすので不毛要素であり、括弧付きの「信念」と表記する。「不毛な対立」で最後まで残る重要な不毛要素。

「思い込み」:思い込みとは安易な独りよがりの固定観念・先入観。信念とは違って客観的な反証が提示されれば容易に変更され得るが、理解力・判断力の不足などでこれが出来ない状態を「思い込み」とする。主なものに不確実性の恣意的解釈、および正/誤(あるいは良/否や善/悪)判断の単純化がある。

「感情」:感情とは怒りが燃え上がる、不安に陥る、情緒的となる、無闇に反発する等。これらが過度なものを「感情」とする。理屈は無関係。自分に発生するだけでなく、他人の説得・誘導に利用することが多い。

「損得」利害当事者が自分の損得を安易に決めつける、および非当事者が自分の損得を優先させるような不適切な損得勘定を「損得」とする。


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