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不毛な信念対立 F-10-3
2. 信念と「不毛」
2-1 本来の形
情報を材料にした思考によって信念候補が得られ、そのうちで自分の価値観に合致したものが信念となります。そして、情報は正しく思考も適切となっているのが本体の形です。(左図)
また、価値観・情報・思考は互いに影響し合って左図の流れに織り込まれていますが、それぞれが良い方向に監視し支え合っているのが本体の形です。(右図)
しかしながら、様々な影響でこれら本来の形から逸脱すると情報・思考・価値観のそれぞれが「不毛」の要因になってしまいます。
2-2 信念3要素
一般的な「不毛」の形で考察した後に、川辺川ダムの例で確認します。
1)「情報」
(一般)
信念の内容は情報がスタート点となりベースになっています。
そのため、情報が正しくない限り、その後の思考と価値観に関わらず「議論での一方的な主張」「議論のすれ違い」などの様相が現れて「不毛」となります。(左図)
また、たとえ情報のほとんどは正しいものであっても、一部の重要な事実判断が誤っていれば「不毛」になってしまいます。(右図)
情報は信念対立の騒動に隠されて見過ごされがちなのですが、実は、単なる情報の誤りが重要な「不毛」の要因になります。
(川辺川ダム)
「基本高水はせいぜい5400トン/秒」との誤った事実判断をしていた人々は7000トン/秒とする国交省とはまともな議論になりませんでした。
その他、「破堤しない堤防さえあれば越水しても大災害とはならない」「流域住民は災害に慣れているので、すみやかに避難して人的被害はほとんど起きない」など歪んだ事実判断も多々ありました。
2)「思考」
(一般)
たとえ情報が正しくても、(価値観の前の)思考が不適切であれば、誤った情報と同様の様相が現れて「不毛」となります。(左図)
また、情報の中の事実判断にも思考があるので、この思考が不適切であれば同様に「不毛」となります。当然、後の(価値観の前の)思考が適切であっても修正はできません。(右図)
なお、同じ思考でも事実判断のための思考には論理性が、その後の(価値観の前の)思考にはものごとの本質を理解し洞察する力が重要となります。
思考も見過ごされがちなのですが、実は、不適切な思考はダブルで影響するので強力な「不毛」の要因になります。
5400トン/秒は脱ダム活動家・学者が自分たちで導き出した事実判断でしたが、そのための思考が不適切だったため、自分たちの情報(様々な基礎データ等)自体には大きな問題はなかったはずなのに誤ってしまいました。
なお、その後の(価値観の前の)「5400トン/秒なのでダムは必要ない」との思考は適切だったのですが、修正されようもありません。
一方、「ダムが水害を起こす」「すでに”緑のダム”が復活」ではふたつの思考がともに不適切だったようです。
(一般)
価値観は人それぞれであって、それ自体に正/誤や適/不適はありません。しかし、価値観の“過度な干渉”によって情報や思考に問題が生じている場合が多くなっています。
具体的には、価値観がバイアスにより思考を不適切なものとする、チェリーピッキングにより情報を誤ったものとする、あるいは誤った情報を思考が正当化することを価値観が擁護する等です。
これらは無意識とはなりますが、「ダブルスタンダード」「視野狭窄、思考の偏向」の様相が現れます。
価値観は人それぞれで構わないので無関係と思われがちなのですが、実は、この“過度な干渉”が深刻な「不毛」の要因になります。
(川辺川ダム)
価値観の“過度な干渉”が「基本高水」「緊急放流」「死の川」「緑のダム」などに関わる情報・思考に問題を生じさせたと思われます。
また、「死の川」と主張しながらそれを証拠立てることを避けているのは、価値観が情報・思考の動きを封じているようです。
さらに、盛んに主張していた「5400トン/秒」が誤っていたと判明した水害後では、反対派はこのことに一切口を噤んでいます。価値観がこれを無かったものにしてしまっているようです。
(一般)
泥沼にはまっている「不毛」には「アイデンティティ」が深く影響しているいる場合がほとんどです。
アイデンティティ自体に問題があるわけではないのですが、以下のようにして「不毛」に落とし入れます。
本来であれば「正しいと信じているから、私の信念になった」はずです。しかしながら、実際には「私の大切な信念なのだから、正しいと信じている」となり、最終的には「『アイデンティティ喪失が恐ろしい』ので『正しいと信じ込もう』」になっています。
このようにして「アイデンティティ」は信念と“相互依存状態”
となります。
そして、無理やり「信じる」ために情報・思考・価値観に干渉します。
これは価値観の“過度な干渉”と全く同じなのですが、心の拠り所だけあって強力です。
しかも、価値観への影響は大きいので一層強力で深刻な「不毛」の要因になります。(下図)
なお、「不毛」の様相としては、前半の「アイデンティティ喪失が恐ろしい」によって「過度の熱気/切迫感」「事実の曲解、相手主張の貶め」「敵対的態度、人格攻撃」などの攻撃的なものに、後半の「正しいと信じ込もう」によって「自説へのこだわり」「頑迷・独善」「**ありき」などの偏狭的頑ななものになります。
(川辺川ダム)
脱ダム活動家・学者が「国交省見解の7000トン/秒は科学的な捏造、ダム建設に導くための恣意的な数値」とまで喧伝していたのは自分のアイデンティティを護るの面が強かったと思われます。「ダム反対運動にとっての聖地」ではどうしても成功してもらわないと困るのでしょう。
もともと学者は真理探求者として学問を重視する価値観、およびよく訓練されたハイレベルの情報・思考を持っているはずなのですが、「アイデンティティ」によってこれらすべてが鈍ってしまったようです。
“正確・公正” の倫理綱領を優先しなかったマスメディアも類似した状況であり、特に反対運動のバイブルになった連載執筆記者にはこの傾向が強く出てしまったようです。
前編V 2.では「信念」からの干渉・促進によって関連する様々な事実判断は歪んだものになり、さらには同じ傾向を持つ派生「信念」が粗製乱造されるとしました。(左図) しかし、詳しくは新しい信念側では右図のようになっていると考えられます。
また、元の信念側を含めると下図のようになっていると考えられます。
各不毛要素と「不毛」との関わりは下図のようにまとめられます。
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