研究 U編 信念対立の検討

  U-4章
 「個性」「関心」サブ要素の検討  2-4
                                                                  

1. 検討の進め方
 本章では、「個性」「関心」によるサブ要素そのものについて詳しく検討する。
  各要素は信念にどのように影響するのか? 人によって各要素はなぜ差異が生じるのか? の2点について、それぞれ原発問題の例を利用しながら検討を進める。

2. 要素と原発問題の確認
 3要素とそれぞれのサブ要素を表1にて確認しておく。(オリジナルはU-1章 表1とU-3章 表2)

表1

 原発問題の状況を表2にて確認しておく。(オリジナルはU-3章 表3)
 なお、原発問題は「複合型」なので、「事実対立」「非事実対立」の両面を持っている。

表2

3. 信念への影響
 各要素は信念にどのように影響するのか、について検討する。
 以下、「個性」関連をα、「関心」関連をβと表記する。たとえば、3要素のうち『**(情報/思考/価値)』での「個性」によるサブ要素は『**α』、「関心」によるサブ要素は『**β』とする。

3-1 『情報』
 『情報α』は案件とは直接関係しない基本的な既得情報ではあるが、つぎの『情報β』の基盤となっている点などから間接的には信念に影響し、信念の方向づけのベースとなる。
 一方、『情報β』は案件に関する詳しい情報で新たに入手されているので、信念への影響は直接的で強力なものとなっている。

 これらを原発問題の例にて具体的に示す。

 表2の左列では、もともとの「環境関連を中心とする諸情報」(『情報α』)がベースとなり、新たな「原発の欠点を中心とする諸情報」(『情報β』)が直接的に「原発の撤退」の信念形成を後押しする。
 右列では、ちょうどこれと反対のことが起こり、もともとの「工学関連を中心とする諸情報」と新たな「原発の利点を中心とする諸情報」が「原発の存続」の信念形成を後押しする。

3-2 『思考』
  『思考α』は案件とは直接関係しない基本的で常套化された考え方であり、つぎの『思考β』の基盤となっている点などから信念の方向づけのベースとなる。
 一方、『思考β』は案件に合わせた思考で深く精緻なものなので、信念への影響は直接的で強力なものとなっている。

  原発例の左列では、もともとの「理想主義的な考え方」と新たな「環境汚染の枠での考え方」が「原発の撤退」の信念形成を後押しする。
 右列ではこれと反対に、「現実主義な考え方」と「エネルギー問題の枠での考え方」が「原発の存続」の信念形成を後押しする。

3-3 『価値』
  『価値α』は案件とは直接関係しない基本的で概念的な価値観であり、つぎの『価値β』の基盤となっている点などから信念の方向づけのベースとなる。
 一方、『価値β』は案件に合わせた具体的な価値観なので、信念への影響は直接的で強力なものとなっている。

 原発例の左列ではもともとの「環境保護を重要視する価値観」と新たな「リスクゼロを重要視する価値観」が「原発の撤退」の、右列では「産業発展を重要視する価値観」と「現存インフラの有効活用を重要視する価値観」が「原発の存続」の信念形成を後押しする。

4. 人による差異
 人によって各要素はなぜ差異が生じるのか? について検討する。 (サブ要素を含まない3要素についてはU-1章 2-3 にて説明済み)

4-1 『情報』
 「既得情報」である『情報α』は人それぞれの教育歴などによって差異が生じる。
 さらに、「入手情報」である『情報β』は、次のメカニズムで大きな差異が生じる。イメージを図1に示す。

 @ まず、世にある大量の情報の中から接することになったのが「接触情報」であるが、そのための媒体とネットワークは人それぞれの「関心」で左右される。
 A さらに、「接触情報」の中から取捨選択して得られたのが「入手情報」であるが、その基準は人それぞれの「関心」で左右される。
 B もともと、「関心」自体がその人の「個性」と既得情報を基盤としている。

図1

 

 なお、「接触情報」と「取捨選択」には他要素の『価値』の影響も大きい。(U-1章 図1参照)

  以上の『情報』の差異は一般にはよく理解されていない。たとえば、集団間での信念対立では、単に集団としての利害・立場の違いが反映しているだけと思われがちであるが、実際には構成員個人の『情報』の差異が本質的な原因となっている場合が多い。

  原発例では、『情報α』は、表2の左列のようにもともと「環境志向」の人は「環境関連を中心とする諸情報」になるが、右列のように「工学志向」の人では「工学関連を中心とする諸情報」になるだろう。
 さらに、『情報β』は、左列のように新たに環境問題(特に環境汚染)に「関心」を持った人は「原発の欠点を中心とする諸情報」になるが、右列のようにエネルギー問題に「関心」を持った人では「原発の利点を中心とする諸情報」になるだろう。

 ちなみに、左列は環境問題を専攻した人や環境NPOメンバーなど、右列は原子力や電力・発電工学を専攻した人などが当てはまるだろう。

4-2 『思考』
 「常套化された思考」である『思考α』は人それぞれの経験などによって差異が生じる。単純には現実主義vs理想主義、論理的vs直観的、、懐疑的vs盲信的、楽観的vs悲観的、慎重vs軽率、緻密vs粗雑 などとなるが、実際にはこれら多元の濃淡模様の差異となる。
 さらに、「枠組みされた思考」である『思考β』は基盤となる『思考α』が異なる上に、その人が適切と判断した枠での考え方なので大きな差異が生じる。

なお、「枠組み」には他要素の『価値』の影響も大きい。(U-1章 図1参照)

 『情報』の構図と類似しているが、『思考』ではあいまいな面や合理的ではない面が増えている。
 それは、「自分の知っている限りの世界」に比べて「自分の考えている限りの世界」の方が他人からは見えにくく批判されにくいからである。


原発例では、『思考α』は左列と右列で、「個性」の違いから「理想主義的な考え方」vs「現実主義な考え方」となるだろうし、さらに『思考β』は「関心」の違いから「環境汚染の枠での考え方」vs「エネルギー問題の枠での考え方」となるだろう。
 特に、『思考β』での「枠組み」は、原発が耐えるべきは「1万年に一回程度の超巨大地震」vs「100年に一回程度の大地震」、あるいは原発問題と地球温暖化問題は「別の問題」vs「不可分な問題」などと全く違っているはずである。

4-3 『価値』
 「概念的な価値観」である『価値α』は人それぞれの環境などによって差異が生じる。
 さらに、「具現化された価値観」である『価値β』は基盤となる『価値α』が異なる上に、それを自分の「関心」に基づいて具現化しているので大きな差異が生じる。

なお、価値観の具現化には他要素の『思考』の影響も大きい。(U-1章 図1参照)

  原発例では、『価値α』は表2の左列と右列で、「個性」の違いから「環境保護を重要視」vs「産業発展を重要視」となるだろう。たとえば、大自然育ちは自分を育んだ環境を守りたい、大都会育ちはより便利な生活を目指したい、との傾向があるだろう。
 さらに、『価値β』は「リスクゼロを重要視」vs「(現存インフラの)有効活用を重要視」となるだろう。たとえば、環境汚染を気にする人はリスク増加を一切認めない、エネルギー問題を気にする人は合理的に対処すべき、となるだろう。

 『思考』の構図と類似しているが、『価値』ではあいまいな面や合理的ではない面がより強くなって自分勝手なものとなっている。
 それは「自分の認めている限りの世界」は他人からは隔絶された聖域だからである。


5. まとめ
 以上をまとめると表3となる。

表3



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