研究 U編 信念対立の検討

  U-3章
 「個性」「関心」サブ要素の導入  2-3
                                                                  

1. 「個性」「関心」によるサブ要素
 信念対立の検討をより精緻にするために、本人の「個性」「関心」によるサブ要素を導入し、『情報』『思考』『価値』の3要素をそれぞれ分化させる。

1-1 会社の譬え
 まず、イメージ形成のために会社の譬え(U-1章 図2 参照)で考えると、会社での事業拡大にはヒト・モノ・カネが必須であり、それらの動きは既得のα:「従来事業の実績」と現在進行形のβ:「新規事業の方針」で定められる。

 たとえば、αβともに旧態依然の会社であれば、ヒト・モノ・カネの動きは旧体質から逃れられないであろう。しかし、αは旧態依然でもβに斬新さがあれば、安定さのなかにも斬新さがのぞいたものとなる。また、ベンチャー企業ならαβともに全く斬新なものとなろう。

 この譬えの構造を図1に示す。


図1

 1-2 「個性」「関心」とは
 さて、本題の信念に関して「個性」「関心」の説明から始める。
 「個性」とは「本人に固有の性質」、「関心」とは「本人が(なんらかの思いをいだいて)注意を払うこと」と定義する。

  「個性」は、本人の教育(長年にわたって受けてきた様々な教育)・環境(育ってきた社会・家庭・交友などの環境)・体験(強い印象を残した体験)・性格、および現在の職業・所属組織や社会的立場などが反映している。
 一方、「関心」は、現在実際に向かい合っている該当案件の状況や本人のさまざまな思い(興味・探究心・欲望など)などが反映している。

 また、「個性」は本人にのみ依存し案件には無関係であり、固定的で変更されにくい特性がある。
 一方、「関心」は案件に依存し、流動的で変更されやすい特性がある。

  ただし、「関心」でのさまざまな思いは、当然ながら「個性」が基盤となっている。この点では、「関心」は「個性」から完全に独立しているわけではない。

  まとめると表1となる。

 表1

1-3 「個性」「関心」によるサブ要素
 このような「個性」「関心」が3要素の内容を定めることになるが、両者はかなり異質となっている。
 そこで、下記のように3要素を「個性」「関心」に対応したサブ要素に分化させることにする。

  『情報』は、長年にわたって蓄積してきた、既得の基本的な知識を一般的な内容とする『既得の情報』、および新たに入手された、該当案件に関する詳しい情報の『入手された情報』に分化させる。

  『思考』は、生得や経験で形成されてきた、きまりきった(常套化された)基本的な考え方の『常套化された思考』、および新たに枠組みされた、該当案件に関する深く精緻な思考の『枠組みされた思考』に分化させる。

  『価値』は、長年を経て固まった、基本となる概念的な価値観の『概念的な価値観』、および新たに具現化された、該当案件に関する具体的な価値観の『具現化された価値観』に分化させる。 

  まとめると表2となる。(U-4、5章で詳報)

表2

なお、「関心」は「個性」を基盤としているので、各要素の「関心」によるサブ要素は「個性」によるサブ要素を基盤としていることになる。

1-4 サブ要素を含めた信念対立の構造
 「個性」「関心」によるサブ要素を含めた信念形成の構造は図2となる。

図2

2. サブ要素の利用
2-1 原発の撤廃vs存続
 福島原発事故を契機に「原発は撤廃すべき」との信念に至った人々と「原発は存続すべき」との信念に至った人々の典型的なアウトラインは、「個性」「関心」によるサブ要素によって下記のように示されるだろう。

  ある人々は、もともと「環境志向の理想主義」であるα:「個性」によって、「環境関連を中心とする諸情報」、「理想主義的な考え方」、「環境保護を重要視する価値観」を持っていた。
 しかし、原発事故によって新たに生じた「環境問題(特に、環境汚染))へのβ:「関心」によって、「原発の欠点を中心とする諸情報」、「環境汚染の枠での考え方」、「リスクゼロを重要視する価値観」を持つようになった。
 そのため、「原発は撤退すべし」との信念に至ることになった。

 一方、別の人々は、もともと「工学志向の現実主義」であるα:「個性」によって、「工学関連を中心とする諸情報」、「現実主義な考え方」、「産業発展を重要視する価値観」を持っていたが、新たに生じた「エネルギー問題」へのβ:「関心」によって、「原発の利点を中心とする諸情報」、「エネルギー問題の枠での考え方」、「現存インフラの有効活用を重要視する価値観」を持つようになったため、「原発は存続すべし」との信念に至ることになった。 

 まとめると、表3となる。

表3

 これらの人々による「原発の撤廃vs存続」の信念対立の構造は図3となるだろう。

図3

2-2 たて糸とよこ糸

 先に、「検証性」のサブ要素を各事例の横断的理解のために利用し(T-4章 2-3)、”主観事実”のサブ要素を構造理解のために利用した(U-2 3.)が、「個性」「関心」によるサブ要素は横断的理解と構造理解、さらに構造のメカニズム理解に利用できると考えられる。

 3要素と「個性」「関心」によるサブ要素は、信念対立理解のための「たて糸とよこ糸」になると期待できる。



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