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研究 U編 信念対立の検討
U-5章 信念の変更可能性 2-5
1. 検討の進め方
信念が変更される可能性があるのか? どのようにして変更されるのか? は信念対立にとって重要なポイントとなる。
そこで、本章では、「個性」「関心」によるサブ要素が変化し、それによって信念が変更される可能性について詳しく検討する。一般論の後に原発問題の仮想例を利用し、注意すべき点も付記する。
2. 一般論
2-1 サブ要素の変化
1) 『情報』の変化
一方、「入手情報」である『情報β』は自分の「関心」に応じて選択して得た情報なので、「関心」が変われば“自動的”に変化(更新)されるはずである。ただし、『情報β』の変化は『情報α』に含まれる範囲内となる。
2) 『思考』の変化
一方、「枠組みされた思考」である『思考β』は自分の「関心」に応じて枠組みが設けられるので、「関心」が変われば変化する“可能性は高い”。ただし、『思考α』に理解される範囲内となる。
『情報』の構図と類似しているが、『思考β』の変化は“自動的”から“可能性は高い”へと やや厳しくなる。
3) 『価値』の変化
一方、『価値β』は、自分の「関心」に応じて具現化するものなので、「関心」が変われば変化する“可能性はある”。ただし、『価値α』に認められる範囲内となる。
『思考』の構図と類似しているが、『価値α』の変化は“不可能”に、「関心」に応じた『価値β』の変化は“可能性はある” へと大変厳しくなる。
表1
2-2 信念の変更
第一に、「関心」によるサブ要素『情報β』『思考β』『価値β』は、信念への影響が直接的で強力であることはすでに示されている(U-4章 3.)上に、「関心」が変われば変化し得ること(“自動的”〜“可能性はある”)が上記により示された。
したがって、信念は「関心」に応じて変更され得ることになる。しかも、「関心」は様々なきっかけで変わりやすいので、信念の変更は十分にあり得ることになる。
第二に、「事実」に関する信念では、『情報』の重みが大きいことは示されている(U-1章 2-2)上に、『情報β』の変化は“自動的”であることが示された。
一方、「非事実」に関する信念では、『価値』の重みが大きいことは示されている上に、『価値β』の変化は“可能性はある”に留まっていることが示された。
したがって、「事実」に関する信念は変更されやすく、「非事実」に関する信念は変更されにくいことになる。
第三に、「個性」によるサブ要素『情報α』『思考α』『価値α』は、信念への影響が間接的で方向づけのベースに留まることが示されている(U-4章 3.)上に、もともと変化は“困難”“不可能”であることが示された。
また、「関心」によるサブ要素の変化は「個性」の許容内に留まることが示された。
したがって、「個性」は信念の変更の駆動も妨害もしないが、変更の範囲は「個性」の許容内となる。
3. 原発問題の仮想例
原発問題を例にしてサブ要素の変化と信念の変更について確認する。
なお、原発問題は事実に関する信念ではないが重要な根拠は事実となっているので、非事実に関する信念の状況も内包している。
ここでは、あくまで仮想ではあるが、原発問題での信念の変更が表2のような形で進行したとしておく。
(ちなみに、「地球温暖化問題の父」と言われているジェイムズ・ハンセンは、悲惨な結果を招く地球温暖化を回避する唯一の方法として原発の推進を強く訴えている)
表2
1) 『情報』の変化
しかしながら、括弧内で示された「関心」の具体的な対象が(環境汚染)から(全般)に変わったため、『情報β』は「他の汚染も深刻」と警告するものに変化している。
さらに、具体的な対象が(地球温暖化)に変わったため、『情報β』は「CO2排出による地球温暖化」を警告するものものに再変化している。
これらが、信念を「原発は即時・全面撤廃」から「段階的に撤廃」に変更させ、さらに「(一転して)原発を推進」と劇的に変更させるための情報面での原動力となっている。
2) 『思考』の変化
しかしながら、「関心」の具体的な対象が(環境汚染)から(全般)に変わったため、『思考β』は「他も低減するには?」と考えるように変化している。
さらに、具体的な対象が(地球温暖化)に変わったため、『思考β』は「CO2排出低減には?」と考えるように再変化している。
これらが、信念を変更させるための思考面での原動力となっている。
3) 『『価値』の変化
しかしながら、「関心」の具体的な対象が(環境汚染)から(全般)に変わったため、『価値β』は「トータルで考えるべき」と考えるように変化している。
さらに、具体的な対象が(地球温暖化)に変わったため、『価値β』は「地球のリスクこそ大事」と考えるように再変化している。
これらが、信念を変更させるための価値観での原動力となっている。
4. 注意すべき点
4-1 案件側の変化
今までは案件の状況は変化せずにその人の「関心」が変化した場合を想定したが、実際には案件の状況が変化する場合の方が普通であろう。
たとえば、事態が変化する、新たな問題点が発生する、新たな事実が明らかとなる、新たな主張が示される等々があるはずで、変化しない場合の方が稀であろう。
しかし、「関心」は案件に依存する(U-3 表1)ことからして「関心」の変化と案件の状況変化は等価となるので、上記の検討結果はいずれにも適用される。
したがって、信念の変更は“普通”にあり得るものとなる。
4-2 一般的な見方
本研究では信念対立をターゲットとしているので、信念を「正しいと信じ堅固に守る自分の考えのうち、具体的なもの」に限定しており、対立が発生しない抽象的・概念的な信念や個人的な決断・意志を示す信念とは区別をしている。(T-2章 1.)
そして、一般的には、前者を想定して「本物の信念は変更などあり得ない」、後者を想定して「信念が変更されるのは本人に問題があるから」と見なすことも多いが、これらの見方は本研究とは無関係であることを確認しておきたい。
本研究での信念では“本物の信念こそ”変更は普通にあり得るし、それは問題ではなくむしろ“望ましい”こととなる。
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