川辺川ダムでの「不毛な対立」   F-9-5



W 「不毛」の改善
果たしてどのようにすれば川辺川ダム建設反対運動における「不毛」を改善できたのでしょうか?
実施のハードルは高いのですが、理論的に導かれる改善策を提案します。 

1. 事実判断の一致
紛糾の大元は事実判断の違いでしたが、原理的には“事実”は皆で共通認識を持ち得るはずです。そこで、最も基本となる改善策は事実判断を一致させることになるのですが、これが不毛要素によって阻害されています。
そこで、以下に
不毛要素ごとの改善策を示します。

2. ”損得ベース”の改善
「損得」「感情」「思い込み」の改善策はいずれも”損得ベース”に可能性があったと思われます。

1)「損得」・・・本当の損得を見極める 
利害当事者である流域住民はいとも簡単に「ダム反対!」と決めつけていました。
実際、以前はダム反対が8割だったのに水害後には3割まで激減していますので、流域住民の実に半数が損な方を選んでしまったことになります。

そこで、利害当事者での「損得」の改善策は「自分にとっての本当の損得をしっかり見極める」ことになると思われます。

 多くの脱ダム関係者のように、直接の損害は被らないのに深く関与している非利害当事者に対しては別のアプローチが必要となります。
脱ダム関係者は流域住民に不適切な選択を誘導した点で重大な責任がありますので厳しく批判されてしかるべきです。そこで、もし彼らが「利害当事者に不適切な誘導をしたら世論から厳しい批判を受けてしまい、結局、自分たちが損害を被る」との圧力を感じていればよかったことになります。こうすれば非利害当事者も利害当事者と同じ立場になります。

そこで、非利害当事者での「損得」の改善策は、まず「世論が不適切な主張と姿勢に対して厳しく批判する」こと、そのつぎに「自分にとっての本当の損得をしっかり見極める」ことになると思われます。

 2)「感情」・・・現存手法を適用する 
利害当事者である流域住民は強権的な国交省への怒りや清流への思いなどの強い感情を抱きましたが、これが「不毛」の一因となって結局は自らが大きな辛苦を味わうことになってしまいました。
この構図は損得と同じなので、利害当事者での「感情」の改善策は、上記「損得」の策「本当の損得を見極める」の前に「感情を”抑制”して」を追加した形になると思われます。
非当事者でも同様です。

しかしながら、損得とは違って感情は冷静な判断力を失わせること、活動家らによって利用されることから抑制は容易ではありません。

一方で、世の中では「怒りは百害あって一利なし」「感情的になったら負け」などとして感情を抑制する必要性は十分に認識され、そのために洗練された感情抑制法が各種編み出されています。
そこで、これら現存の方法を「不毛」の状況に沿うように適用する策が有効と思われます。

 3)「思い込み」・・・対立相手に耳を傾ける 
利害の当事者・非当事者ともに自分では気づかないまま理解力不足による「思い込み」に陥っていました。

基本的な構図は「損得」と同じです。また、思い込み自体は気づきにくいものですが、理解力の不足は自覚できるはずです。
そこで、「思い込み」の改善策は「本当の損得を見極める」の前に「必要な理解力を備えて」を追加した形になると思われます。


なお、「必要な理解力を備える」方法も多数編み出されていますが、具体的な中身は案件ごとに異なるのであまり期待はできません。

しかし、実は、最も有効な方法が目の前にあります。対立相手からの批判に耳を傾けることです。それは自分たちの弱点を指摘してくれる声です。そして、対立相手は自分の知らない情報をいくらでも提供してくれますので、彼らの批判を真摯に検討すれば容易に「思い込み」は改善できるはずです。


また、「思い込み」刷り込みの場合には「世論が刷り込みを厳しく批判する」ことが必要となります。


3. 「信念」の改善
「信念」の改善は大変難しくなっています。

水害後に減少したとは言え流域住民の3割がダム反対を変えておらず、地元の活動家も積極的な反対運動を継続しています。これを支えているのは彼らの堅固な「信念」であると思われます。全国区の活動家や学者もこの点は同じでしょう。結局、水害は「損得」「感情」「思い込み」をかなり消し去りましたが、「不毛」の“骨格” である厄介な「信念」は打ち砕けなかったと思われます。

「信念」の改善が難しい理由は以下となります。

まず、信念は基本的に損得勘定を拒否するので”損得ベース”にはなり得ません。つまり、自分の「信念」を改善しようとする動機が存在しにくくなっています。
つぎに、信念は正しいと堅固に守る考えなので、どんなに強力な反証で批判されても頑なに拒否し、むしろ強い反発を引き起こします。


 4. まとめ
川辺川ダムの例から得られた「不毛な対立」の改善策は以下のようにまとめられます。

「損得」では、利害当事者が「本当の損得を見極める」
また、非利害当事者に対しては、世論が彼らの不適切な主張と姿勢を厳しく批判する。

 「感情」では、損得見極めのために感情を抑制する。
そのためには、現存の感情抑制法を適用する

 「思い込み」では、損得見極めのために必要な理解力を備える。
そのためには、対立相手の批判を真摯に検討する。

また、「思い込み」刷り込みには世論が厳しく批判する。

しかしながら、「信念」の改善は”損得ベース”にはならず大変難しくなっています。

X 全体のまとめ

T 序論
紛糾していた水害規模やダムの効果・環境破壊などは“事実”なので、本来なら共通の認識を持ち得たはずです。しかし、国交省の強権的な進め方に対抗して脱ダム関係者が不適切な主張を喧伝し続けていたため、長期間に渡って有効な対策がなされないまま今回の水害が発生しました。まさに「不毛な対立」でした。


U 「不毛」の状況
脱ダム関係者の主張には「歪んだ事実判断」が目立ちましたし、彼らの姿勢にはマスメディアは“事実に角度を付けている”、活動家は”正確・公正”を欠いている、学者は活動家になっている、住民は理解力が不足している等があり、これらが「不毛」を引き起こしています。

V 「不毛」の解析
不毛要素とした「信念」「思い込み」「感情」「損得」で解析すると、主張では「信念」により「歪んだ事実判断」が造られ、そこから同傾向の「信念」が粗製乱造されていました。安易な「思い込み」も溢れかえっていました。

姿勢ではマスメディアは“正確・公正”より優先される「信念」、私企業の「損得」等がありました。また、活動家には確信犯正当化の「信念」、学者には“真実”を鈍らせる「信念」、住民にはコントロールされる「思い込み」等がありました。

W 「不毛」の改善
「不毛」の改善策としては、「損得」は本当の損得を見極める、「感情」は損得見極めのために現存の各種感情抑制法を適用する、「思い込み」は損得見極めのために対立相手の批判を真摯に検討する、等があります。しかし、「信念」は”損得ベース”にはならないので改善は大変難しい

 「運命共同体 百年の大計」は本編の予備的な論考になっています。


 (完)


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