科学者/専門家の責任と倫理 
  F-6-4


5. 最初からクリアーしていれば  2017.12.31

もし移転反対の科学者/専門家が最初から上記改善策をクリアーし、適切な主張を積極的に行っていたら事態はどうなったでしょうか? 


東京都が計画段階で豊洲移転を中止していた可能性もあったでしょう。世論から信頼されている科学者/専門家が豊洲の問題点をしっかりと指摘していれば、都はそれをむげに無視できません。なによりも、最も恐れている移転後の問題勃発と自分たちへの責任追及を避けるために、その指摘を真剣に検討するはずです。

2016年11月の移転延期以降では、まずは、健康被害や床耐荷重などの問題について真摯な議論が行われて、関係者一同(科学者/専門家・行政・市場関係者)においてファクトの共通了解が得られる可能性があったでしょう。

科学者/専門家は日常的に学術会議/技術検討会議などでの真摯な議論によって統一した学説/技術見解を出している訳なので、同じことが豊洲でも出来るはずです。また、その結果を行政・市場関係者に丁寧に説明すれば関係者一同の共通了解を得ることは決して困難ではないはずです。


つぎに、ファクト共通了解の基で様々なメリット/ディメリットに関する議論が行われ、その結果、関係者一同にとってディメリット(or メリット)の方が大きいとの合意が得られて円満に移転中止(or 移転実行)になる可能性もあったでしょう。しかし、それぞれの立場・価値観・信条によってメリット/ディメリットが異なって判断が対立する事態、いわゆる利害対立・信念対立になる可能性の方が高かったでしょう。

 

この利害対立・信念対立はどうしても乗り越えなければならない関門なのですが、これは現状とは質的に異なります。現状は、自分の利害や信念の隠れ蓑としてあいまいなファクトを振り回す、自分に都合のよいファクトのみに基づいた主張を無責任にまき散らす、相手の些細なファクト誤認などを執拗に攻撃する、などファクトの不適切な扱いによって大きな混乱に陥っています。

対する上記の利害対立・信念対立では、すでにファクト関係は適切に整理されているので、純粋な利害対立・信念対立となって各人の利害と信念の正当性を主張し合う議論になります。当然ながら喧々諤々の議論とはなりますが、無意味な混乱要素はありません。皆がともに苦しみながらも、最終的には公正・公平な合意にたどり着くことが出来るでしょう。

  

5. おわりに

豊洲移転での現状は、科学に関わる不毛な信念対立の典型となっています。スケールは異なるものの福島原発事故後の低線量被曝問題とはほぼ同じ構図であり、この複雑怪奇な対立を理解する上に豊洲移転の現状はとても参考となります。その他、すでに終結したダイオキシンや環境ホルモン、現在も進行中の原発や地球温暖化、ワクチン(子宮頸がんワクチンは特にホット)に関する対立と共通する所が多くなっています。また、「科学者/専門家への信頼低下」や「ファクト(事実)軽視の風潮」の悪影響はすでに社会のあらゆる面に広がっています。

いずれにおいても関与している科学者/専門家の姿勢しだいで状況は改善します。関与している科学者/専門家には、自らの社会的な責任と倫理をしっかりと守り、「不利益を共に被る」事態を引き起こす『悲喜劇』を演じてしまわないようにしていただきと思います。 (完)


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