論考
     科学者/専門家の責任と倫理 
              
- 『悲喜劇』回避のためにも -
  F-6-1



1. 食の安全 2017.12.31

築地市場の豊洲移転に反対する人々の大半はその最大の理由を、少なくとも表向きには「食の安全が脅かされる」としています。そして、その科学的な根拠を一部の良心的な科学者/専門家が支えているとの構図になっています。

しかしながら、実際には移転反対の科学者/専門家からその根拠は何も示されていません。土壌中の有害物質が消費者にどのような経路で届き、どの程度が摂取され、どの程度の健康障害を起こすのか? に対する科学的な説明は全く行われていません。

抗議集会で専門家と紹介されて登壇し威勢よく危険性を訴えていた女性に、集会後その根拠を直接尋ねてみましたが、困った様子でまともな説明はしてもらえませんでした。参考となる文献を聞いても無いとのことでした。

別の集会で「科学者を代表して抗議します!」と訴えていた男性に聞いても同様でした。

 

もともと環境基準値は「70年間、毎日2Lを飲用(ガスなら24時間吸入)したら、がん発症が10 万人に1人増加する」値です。その基準を2桁超える地下水が存在したとして、その地下水に触れない商品が消費者に健康被害を及ぼすことなど到底考えられません。

移転反対の科学者/専門家もこのことは十分に理解しているはずで、意識的にプロバガンダに加担していることになります。


2. 豊洲で働く人々の健康被害 

地下ピットのベンゼン濃度が換気によって上昇しているデータがあり、都側の専門家は外気のベンゼンを取り込んだのが原因と説明しています。その根拠は外気のベンゼン濃度と同レベルであり、その変化によく追従していることです。

これに対して、上記の女性専門家は「換気により土壌中のベンゼンが吸い上げられたのが原因」「換気によってかえって危険性が高まる」「豊洲で働く人々が健康被害を受ける」旨の主張をしています。ツイッターでは「地下ピットではガスマスクを装着いただきたいです。すでに工事中に何人か救急搬送されました」「換気で近隣住民への影響が心配」旨の発言もありました。

しかしながら、この主張には説得力がありません。まず、外気か否かとの議論が行われていること自体、地下ピットのベンゼン濃度が危険なレベルではないこと(実際に環境基準値以下)を示しており、このベンゼンが天井の隙間を通って1階にわずかに侵入してもそこで働く人々の健康被害につながるとはきわめて考えにくいことです。つぎに、吸い上げ説は換気→減圧→蒸発量増加を基にしていますが、実際には吸入口にも送風機が設置されるので減圧されませんし、たとえ蒸発量が増加しても排出されるので濃度はむしろ下がることになるでしょう。ガスマスクや近隣住民については論をまたないでしょう。


この女性専門家は石原元都知事を訴える裁判を起こしており、それに関連して「豊洲は汚染まみれ」「どんな対策も無駄」「ベンゼンは猛毒ガス」のようなイメージを持ってしまっているようです。強い認知バイアスを受けていると言わざるを得ません。


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