論考
     専門家の発言  F-3-0


概要

東大教育学部教授で言語とメディアを専門とする影浦氏は、原発・被曝問題に関わる専門家の発言の問題点(表現や言い回しだけでなく枠組みや論理性など)を強く批判しています。例えば、中川恵一東大医学部准教授の『100mSvを超えると直線的にガン死亡リスクは上昇しますが、100mSv以下で、がんが増えるかどうかは過去のデータからはなんとも言えません。それでも、安全のため、100mSv以下でも、直線的にがんが増えると仮定しているのが今の考え方です』との発言に対して、「ここで用いられるべき自然な接続詞は『それでも』ではなく『ですから』のはずです」「それにもかかわらず『それでも』を使うことで、『なんとも言えません」』という記述が科学の無能さを示していること自体が曖昧になってしまいます」と批判しています。

しかし、この批判は「自分だけの事実認識」を前提としているため、批判相手との間には事実認識と発言の二つのギャップが交じり合って存在しており、折角のユークな批判が建設的な議論につながっていません。

基本的には、専門家と非専門家とでは個々の事実(科学的真偽)に関する具体的な議論では意味あるものになりにくいのですが、その他の問題に関しては意義深い議論になるはずです。
 そこで、事実認識と信念(発言・主張)の問題を分離して議論できる「両者の事実認識による批判」法を提案します。

T 両者の事実認識を明らかにする
 自分の事実認識をよく整理するとともに批判する相手の事実認識を予断なしに調べ、それらを両者の違いが明確になる形で明示する。

U 仮に「相手の事実認識を前提」として相手の信念(発言・主張)を批判する
 自分の事実認識を“留保”し、相手の事実認識をもってしてもなお適切とは考えられない相手の問題点を、「相手の事実認識を前提」として指摘する。

V 自分の事実認識に基づいて相手の信念(発言・主張)を批判する
 先の“留保”を解いて自分の事実認識に基づいて、相手の問題点を指摘する。

本法の全般的なメリットとしては、互いに異なる事実認識を持つ両者においても議論を成立・展開させることが可能となります。そして、事実認識の違いに絡み合って混沌となっている他の諸問題を明瞭に浮かび上がらせて、それに集中した議論を行なうことが可能となります。

本法の特徴的なUでの具体的なメリットとしては、
 a) 批判に耳を傾けてくれる・・両者は同じ事実認識に基づいているので、被批判者は批判をむやみに無視できない。
 b) 訴求力のある批判となる・・・同じ事実認識に基づいた上での批判なので、批判がその問題にフォーカスされるとともに、被批判者に理解されやすくなる。
 c) ユニークな批判となる・・・「相手の事実認識」に基づきながらも「自分の考え方」によって「相手の信念(発言・主張)」を批判すると言う従来に全くない形になる。

  これらについて、影浦氏の主張の解析や対立者との仮想議論などを用いてくわしく説明します。