概要  
不毛な信念対立”について  A-1

1. “不毛な信念対立”と健全な信念対立”   

 しっかりとした信念を持ち、自分とは異なる信念との間で対立(信念対立)することは決して悪いことではありません。むしろ、一個人の極めて限られた経験・知識・能力から得られた信念は如何ともしがたい限界を持っているはずで、この限界を超えてより正しい、よりレベルの高い信念に発展させるためには対立相手との建設的な議論が有効です。つまり、本来的には信念対立はよりよい選択のための貴重な手段となって、双方に利益をもたらすものだと思います。

しかしながら、現実にはこのような有意義な(健全な)信念対立は多くはありません。むしろ、「議論がかみ合わない」「情報や枠組みが異なっている」「聞く耳を持たない」「揚げ足取り」「感情的」などの“不毛な信念対立”がちまたにあふれています。

なお、損得勘定が露骨な「利害の対立」、案件とは無関係で相手の人格・資質に対して反発する「相手との対立」、単なる「力の対立」の三つは、信念対立と類似し一部重なりながらも本質的には異なるものです。これらの関係は図1のようにイメージできると思います。信念対立の中では下に行くほど不毛性が強くなっており、下端では「利害」「相手」「力」の三つの対立と重複し不毛性が顕著になっています。


  

代表的な“不毛な信念対立”としては、近年議論が再沸騰している「原発撤廃vs存続」、懐疑論が根強く残る「地球温暖化(原因)」、長らく議論が続けられている「死刑制度」、九条/靖国/国歌国旗などでいつでも激しく対立する「右翼vs左翼」、米国で国を二分している「進化論vs創造論」、世界のどこかで必ず起きている「民族・宗教紛争」などが挙げられます。

一方、不毛とは対極の“健全な信念対立”の代表例は「理学系の学術論争」でしょう。これは、いずれは検証がなされて明確な決着がつくこと、真理探究には真摯な議論が必須であることが共通了解されているためだと思います。

これらの事例のマップを図2に示しました。
 




2. 信念対立の構造   

 どのようにして信念が形成されるかについて考えます。お料理では自分の好きな食材を集めて、それを自分なりの調理法によって、自分の味になっているかを味見しながら仕上げます。信念形成もこれと同じように、自分が妥当と思う『情報』(食材)を集め、それを自分が正しいと思う『思考』方法(調理法)によって、自分の『価値観』(味)に合致しているかを確認しながら信念を形成していくのでしょう。


 これと同じように、信念は当人の心中で、『情報』・『思考』・『価値観』の3要素によって形成されます。そして、これらの要素が互いに影響し合い、制御し合って信念を形成していくのでしょう。 これらの状況を図3に示します。


 これらは、原発の例では下の表1のように整理できるでしょう。
 



3. ”不毛な信念対立”の構造

 つぎは、“不毛な信念対立” の発生(信念対立の”不毛化”)についてです。案件が異なる諸事例では対立状況には大きな差異がありますが、“不毛”に注目して注意深く観察すると共通した構造が見えてきます。この構造はその案件自体としては付随的かも知れませんが、“不毛な信念対立”としては本質的だと言えるでしょう。この構造を図4に示します。



次のようなメカニズムが働いています。

 @ 不毛6要素が信念対立の不毛化を促進させる、
 A 不毛な信念対立が、不毛6要素を増強する、
 B 不毛6要素が信念3要素にバイアスを加え、信念を劣化させる、

4. 改善方法

 “不毛な信念対立”の改善について考えてみます。本サイトでは“健全な信念対立”は有意義で大切としていますので、ここでの改善は“不毛な信念対立”を抑え込むのではなく“健全な信念対立”に変換させることとします。

改善の第一は不毛6要素の無効化です。すなわち、不毛6要素を増強させないこと、不毛6要素と信念3要素の連結を断ち切ることです。

第二は、信念で対立するのではなく、信念3要素の”要素ごと”に議論を行うことです。今まで気づかなかった自分の問題点と相手の正当性、見逃していた重要ポイント、新たな視点が浮かび上がってくるはずです。

 これらのイメージは図5となるでしょう。 


 


 しかしながら、これは基本の基本であり、さらにこれを実現するには様々な工夫と努力が必要となります。
 そして、もっとも重要なことは、当事者が両者にとって不利益な“不毛な信念対立”を改善したいとの強い意思になります。